『創造主』は天地想像のときに―ビッグバンの瞬間に―自然界の法則も想像しました。そして『創造主』自身もこの法則によって万能の力を制限されると考えられます。
 『神』が法則を捻じ曲げ―もしくは人間には未知な法則を使って―介入したのは、生命の創造、アダムの創造のみといわれます。本当の意味の奇跡はこの三つ、天地想像、生命の創造、アダムの創造というわけです。

 福音書の神話的要素の最も重要なものは神聖受胎と復活でしょうが、神聖受胎は『神』が自然法則を捻じ曲げて介入した、新しい奇跡なのでしょうか。
 神聖受胎についての唯一の証言である福音書を読んでみましょう。
 福音書もイエスの語り口もユダヤ的です。その観点から見ると興味深いヒントがあります。
 マタイは「彼女(マリア)は聖霊によって身重になっていることが分かった」(一・一八)と述べ、ルカは「聖霊があなたの上にやって来て、いと高き者の力があなたを覆うであろう」(一・三五)とあります。
 どちらも『神』もしくは天使が彼女と交わったと書いていません。聖霊の力によって身ごもる、とあるだけです。
 これは彼女が男と交わった可能性を排除するものではありません。すなわち彼女が男と交わらなかったとは言っていないのです。
 マリアは「どうしてそのようなことがあり得ましょうか。私は男の人を知りませんのに」(ルカ一・三四)と言っています。彼女は告知のときは男を知らなかったが、その後男と出会い、告知ゆえに彼を受け入れた、と考えられます。
 この語り口はいたってユダヤ的です。彼女はある男と交わったが、身ごもったのは聖霊の力だ、というわけで、これは現代の医学でも通用する事実です。
 『神』はアダム(『神』が息を吹き込んだ最初の人間)を二つに割り男と女に造ると、その後の子作りは、男、女、シェキナ(『神』の臨在)の三者で行われるようになりました。
 すなわち不思議な力が加わらないかぎり、子供は生まれないのです。
 現代医学も解明できないある要素が出産には必要なので、これは人類全体が直感的に体験しています。日本人も「子を授かる」「子を恵まれる」と言っているではありませんか。
 マリアが不倫を犯したということは受け入れがたいかもしれませんが、人間レベルから見れば背徳行為と思えても、『神』の宇宙計画に組み入れられたならば、「不倫」は「有倫」となるでしょう。
 ダビデの後を継いだ者は、彼の不倫の相手バテシバの産んだソロモンだったではありませんか。

 ルネッサンス以降、キリスト教は衰退の道をたどっています。それは科学の成果を取り入れた新しい神学を作れないからでしょう。そのためにも福音書の神話的個所を解釈しなおす必要があると思います。古代中世の人をひきつけた個所が今の若者の優れたブレインを遠ざけています。そして彼らは奇妙な新興宗教に走ります。
 これは二十世紀前半にティヤール・ド・シャルダンがすでに警告していたことですが、二十世紀後半からティヤールの時代よりもさらに科学は飛躍的に進歩しました。そこには宗教と合致できる可能性も見え始めています。今後の時代の大きな問題となるでしょうし問題とすべきです。

    アダムは不死ではなかった
                       
 聖書を読むと、アダムは、『神』の言葉を守らなかったがゆえに死ぬようになった、とは書いていないようです。
 『神』が言ったのは「善悪を知る木、これから取って食べてはならない。これから取って食べる日、あなたは必ず死ぬであろう」(創二・一七)であり、「その日(すぐに)、死ぬ」であり、さらに彼をエデンの園から追放する際に「みよ、人はわれらの一人のように、善悪を知るようになった。いまにも彼は手をのばし、生命の木からも取って食べ、永遠に生きることになるかもしれない」(創三・二二)と言います。
「生命の木からも取って食べ、永遠に生きることになる」のですから、生命の木の実を食べない限り永遠の生命を持たないことになります。そしてアダムはそれを食べていなかったことが『神』の言葉から分かります。すなわち彼は最初から死すべきものとして創られたのです。
 そうなると、アダムの罪ゆえに死が人類に入りこみ、イエスがそれを元に戻した、という原罪と救済の構図は成り立ちません。

 なぜこのような聖書に反する解釈が生じたのでしょうか。一人のユダヤ人を『神』として礼拝し、三位一体の理論を構築しなければならなかった無理が生んだのではないでしょうか。その背後にはイエスをユダヤから切り離そうとする意図が働いていたのではないでしょうか。福音書はやはり最大の反ユダヤ文書かもしれません。これを正した新しい神学が必要だと思います。

  http://www.neshama.info/ (ネシャマー王国)
 http://www.geraldschroeder.com/ (シュローダー博士のHP)(

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